脚本:櫻井武晴 監督:和泉聖治
都内の速度違反感知装置(オービス)に誤作動が多発。その裏では警察庁が秘密裏に行っていた実験の影が見え隠れしていた。とある思惑から神戸はかつての部下・伊達香(水野美紀)と接触する。
時を同じくして発生した営業マンの転落死事件。捜一は事件直後に現場から逃げ去った岩井に殺人容疑をかけるが、岩井の勤める帝都物産が警察OBの天下り先のため圧力をかけられて捜査は難航。いつものように鑑識・米沢との絡みで情報を得た右京が事件に首を突っ込み始める…
Season6最終回以来2年ぶり、『相棒』3回目の櫻井脚本最終回。
櫻井脚本は大好物なので大歓迎なのですが、今シーズンから参戦の新キャラクター・神戸尊の扱いを決定付ける、レギュラー登場人物的に重要な話数なので、こういうのは輿水脚本が担当して結論付けると思っていたので、意外。
秘密事項の「神戸が対右京の庁内スパイであること」が神戸と大河内監察官の間で軽く話題にできるぐらいの扱いになっていたり、神戸が自分のスパイ行為の有益性に疑念を抱いていたいたり、上司に対して報告書を使って探りを入れていたことになったり、いつの間にか設定が変わっていたりしたのは気になったし、今回明らかにされた「神戸を特命係に送り込んだ真意」も後付も後付なのが丸分かりで、シリーズ中の情報提示が上手くいっていない、最終回で急に出てきた、と感じられるものが多かったけど…
そんな急ごしらえ感を吹き飛ばすぐらい、「神戸を特命係に送り込んだ真意」が納得できるものだったのが、ものすごく感動的だ!
毎度おなじみ警察全体を巻き込む陰謀モノの単体話に合わせながらも、シリーズ中の大いなる謎に合理的な解釈を与えている驚異のシナリオ構成力…(もちろん、陰謀モノの話の面白さは申し分なし!)
これだから櫻井脚本はやめられない!(笑)
国民全体を監視し犯罪者を炙り出す顔認証防犯カメラシステム(FRS)を実現させ、その映像分析官に卓越した頭脳を誇る右京を就かせる…曲者の右京を分析官として警察庁の思惑通りに動かしていくために、FRSの現責任者であり将来のFRS運用官になるべき神戸との相性をテストする…
『相棒』作品内の右京の変人ぶりと警察庁の何でも隠そうとする黒さを見るに、かなり合理性のある理由付けに見えるんだよなぁ~
結局神戸は特命係に残ることになるんだけど、まぁそれはこの手の話の定石であるし、問題はどのような経緯でそう決意したかなんだけど、それも納得できる範疇。
薫みたいに、上からの命令で特命係に左遷された状態なら、特命係を辞めない理由だけ考えとけばいいのだけど、神戸は一応帰る場所があるので、自分の意志で特命係に戻らせなければならないから、これが結構手順が要る話。
一応神戸のキャラとしては、公益のためなら権力の意に寄り添うことにもさほど厭わない、という清濁併せ呑む思考形態にあるんだけど、その合理的(非正義的)な考えさえも押し潰す警察庁の黒さを見せられては、反旗を翻して特命係に篭りたくなるわなー
それも自分が心血注いでいたFRS絡みのことだし、自分の後任だった伊達警視がFRS関係の取らなくて良い責任まで押し付けられて辞職に追いやられたのを「もしかすると、ボクが彼女の立場だったのかもしれません」と評したことで、神戸に「自分が“警察を辞めた人間と同じ立場”という考えで動く」と決めたとしても、充分納得できる。
陰謀モノのいつものオチらしく、小野田の思惑によって事件の一端は闇に葬られることになるんだけど、いつもはそうして闇に葬られて終わりになるところなのに、追加指摘があったのも面白い点だったなぁ~
違法性も含まれているFRSを実現させるために、FRSの違法実験を送検させるまいと産業スパイ事件を闇に葬ったら、違法実験を公にしなかったせいで産業スパイによるFRSのデータの海外流出がストップできず、FRSが海外の国のオリジナルシステムとして誕生するかもしれない事態となり、日本でFRSを実現させるためには海外国家に高額のロイヤリティを払わねばならないのだが、そんな予算は日本になくFRSが実現できなくなってしまう…
闇に葬って計画を実現できる軽く踏んでいた雰囲気もあった小野田に、食事の席の何気ない会話として右京が計画実現不可能という不可避の事実を突きつけるのが、逆襲的なケレン味があったな~
それにしても今回の伊丹は熱血すぎる。
薫の意識でも憑依したんじゃないのか、って思いたいぐらい(笑)
今回は右京も神戸も、FRS関連についてはともかく、殺人事件についてはクールな役回りに徹していたので、殺人事件関連のストーリーを進めるのに薫的なキャラクターが必要なのは分かるけど、正義としての筋が通らないという動機付けで、刑事部長や警察OBに大声上げて楯突いてしまったのは、心がまっすぐすぎる、というレベルで、伊丹っぽくないなぁ~
もう、特命係に飛ばされるぞ、その勢い(笑)
最後のシーンは、ベタベタながらも、経緯も経緯なので、中々に好き。
右京「ようこそ、特命係へ」
神戸「何ですか、今更(笑) ボクは半年前から特命係の一員ですけど」
右京「そうでしたね。ところで、神戸君、今夜も飲めそうですか?」
というわけで、右京に新相棒を迎えたSeason8も終わってしまったワケですが…
薫のキャラクターに拠っていたシナリオの面白さはだいぶ削れて、シリーズ自体の面白さもだいぶ落ちてしまった感じではあるけれど、まだまだこの新コンビでいけそうな雰囲気。
少なくとも、私はこの先もまだまだ付き合えそうです。
シリーズの途中から参戦したにわかファンのアドバンテージかもしれんけど…(^^;)
「No.04 錯覚の殺人」「No.10 特命係、西へ」「No.12 SPY」「No.15 狙われた刑事」「No.17 怪しい隣人」「No.18 右京、風邪を引く」、そして今話「No.19 神の憂鬱」がSeason8お気に入りの話。