おおっ!
『ルパン』的かどうかはともかくとして、今年はキチンとしたお話になることに期待できるんじゃないのか!
そう思わせてくれた、ルパンと銭形の攻防が拮抗する実に愉しげなアバンバトルに、ルパンの記憶がフッ飛んでしまった(=視聴者に物語の進行具合が伏せられた)がために状況が混乱してしまったことを契機として謎の解明に興味を持たされていく前半の進行。
この調子でいけば、久々に満足できるTVSPになるのでは、と思えた…
…のだけれど、後半に行くに従い、トーンダウンしていって、いつも以下のクオリティに…(汗)
後半は、前半で面白味を出してた要素がほとんど出てこない。
いつもTVSPの話は、マジメに作ってない底の浅さが感じられて、ルパンファンは元より、「一本の作品」を楽しもうとする私みたいな視聴者から見ても面白くないのだが、それを今回は、人体デッサンや動きの軌道などを物理的に忠実に描くリアル系ではなく、逃げる車を生き物のように描く非リアル的なメタモル系作画にしていて、画的にその浅さを「他愛なさ」に変換してつまらなさを軽減する工夫がなされていたのがポイント。
その一方で、冒頭で車のタイヤを交換している次元が仕草の付け方が割と細かい方だったとか、道端のネコの動きをキャラクター的に描くなど隅の部分まで手を回していたりとか、積極的に画的な面白さを出そうとしているところもあって良かった。
至近距離から追ってくるミサイルを避けちゃうルパンなどなど、誰が見たってそれはありえないと思うような箇所もあったけど、まぁそれはご愛嬌の範囲かなぁ(汗)
あと、『名探偵コナン』風な表情で呆れてみたり、ルパンの表情付けがいつもと違う方向で多彩。
カートを蹴って加速するところで背景の動きを連動させて目を惹くカットを作っていたり、病院からムササビ飛行法で逃げるところのグラグラした画面だったり、カメラワークが面白い箇所があった。
ルパンの電話が切れた後冷静に「コーヒーおかわり」と間の抜けた行動をする次元とか好き。
装甲車の側面に次元の運転する車が片輪走行で寄りかかって、その後バックですごすごと戻っていくところとか、滑稽で面白い。
次元の言葉じゃないけれど、間にちょっとこだわっているような気がする。
お話的にも、記憶を奪われたルパン、という、現実的かどうかはさておき、かなり魅力的な柱を用意できていて、製作側が望んでいるであろう「ファミリー層向けのヌルい展開」の中でも、面白いストーリーを繰り出せる仕掛けになっている。
ルパンの記憶が飛んだ瞬間からのパニックぶりは愉快で「一体何が起こってる?」と視聴者もテレビ画面に惹き付けられるし、「ここまで事態を悪化させてるなんて、消えた記憶の間、何があったのか?」というところを探っていく流れは推理モノっぽくて知的好奇心を、面白さのギミックが充実している。
さらに、「前半にアクションシーンを持ってきてつかみにしたい」という要求が製作側からあるだろうが、それを物語の整合性をブチ壊しにすることなくアクションシーンに持っていける(状況設定の解説を後回しにできる)、という物語的クオリティと商業的クオリティの折り合いが付けられる。
また、記憶の整理のために回想シーンを入れやすい(=既存の制作部分を使い回せる)し、作品的ではないところでいい影響が出てくる。
あと、ギミック的な部分でもなくて、敵のヘリが近付いている最中に列車へ乗り込むときなんかで、派手なアクションではないが、ヘリに見つかるか見つからないかのサスペンスで盛り上げるなど、「主人公になので銃弾は当たらないが、とりあえず危機感演出のために敵にバカみたいな量の銃弾を撃たせる」みたいな“無駄なアクション”にならないようにアイデアを凝らしていた。
…そういう期待感に満ちた展開が、雨が降り出した意味が話的にはもとより、雰囲気作りの演出的にも意味がなくなっていたシーンが出てきた辺りから、トーンダウンが始まる。全然効果的でなく手抜き感しか出てなかった止め絵演出が出てきたり、こだわっていたはずのネコの描写は全然なくなったり…
敵キャラののガーリックが背後から銃弾の雨あられを受けているのに、真横レイアウトにリピート走りで画面奥と手前に移動(作画的には単なる縮小拡大)して全弾避けきる、という緊張感皆無のマヌケな図が出てきたときは、一体何のギャグが始まったのかと(笑)
せっかくの記憶喪失ギミックも、「ルパンは不二子を裏切ったのか?」という大きな謎が、たったの1分のものすごいマヌケな展開を見せられて謎解きにされたりしたところを始めとして、全然面白く調理されていない。
取り戻した記憶に視聴者にとって衝撃の事実が含まれていて、それがクライマックスのアクションなり泣きのシーンなりを盛り上げる仕掛けぐらいあっても良さそうなのに、ほとんど皆無だし。
別に、押井守的な高度な記憶に関する問答、とか、目を覆いたくなるような重い事実がある、とか「作品的には引き締まるが、重い展開になる」ようなものはいらないけど、ヌルいなりにもうちょっと何かあるでしょう…
「あんまり謎を引っ張ると、途中から見始めてくれる視聴者に不親切になって、視聴率が下がる」「長く謎を明かさないでいると、最初から見ていた視聴者が飽きて、視聴率が下がる」というオトナな事情があってあまり高度な伏線は張れないのかもしれないが、別に今回みたいにちょこちょこと謎解きをして事実をヌルく明らかにしていっていいので、最後に「実はまだ残っていた謎があった!」ぐらいのものがあれば、オトナの事情にも配慮しつつ作品的なクオリティを上げることができただろうに。
銭形の扱いの悪さには辟易するが、中の人の年齢を考えるとこういう感じでフェードアウトさせて出番を減らしておいた方が都合がいいのかも。
…っていうか、記憶をなくした銭型の挙動が痴呆老人にようになっていたのは、担当声優の納谷悟朗の最近の様子を見るに、何かブラックジョーク的だぞ(汗)