これはよいショタコン映画ですね。
……もとい、
これはよいわんこムービーですね。
……じゃなくて、
これはよい時代劇アニメですね。
…と書いて、ボケを終わらせようと思ったけど、実はまだ違っている、総括の焦点がボケている。
もっと、観た後の率直な感想に一番近い、作品の本質を言い当てる言葉を探すならば…
これはよいチャンチャンバラバラですね。
それもものすごくクオリティの高い。
…でも、惜しい、
惜しいなぁ…
オレがこの映画の宣伝役になれないことが惜しい!
なんで明日上映が終わってしまうんだ、この映画。
……ハイ、答えは簡単。私が早いトコ観に行かなかったからです(汗)
池袋系女子の皆様、掛け算の良いタネがいっぱい転がってるから、必見ですぞ。
チャンバラ栄養分が不足している皆様、ご家族揃ってどうぞ。血の量がスプラッタ以上に多いけど、気にするな(←気にしろ
…そんなことはともかく。
なぜこの映画を時代劇と断言することが躊躇われるのか。
それは、この映画が時代劇や大河ドラマが舞台とする戦国・江戸時代の風俗・慣習に支配されたドラマを創出しないからである。
例えば、引けば屍の下克上の世に生きる意味を見出せるのか、いかにして天下を目指すのか、危機下で臣下に対して主君としてどう振る舞うか…
例えば、侍とは何ぞや、彼が忠義を尽くしたことの真価はいかなるものか、様々なものを追いかける男たちに対する妻のあり方とは……などなど。
そのような、時代背景を色濃く匂わせる設定が、この映画にはほとんどないのだ。
「一人の少年が悪漢たちに追われている。どこか影のある凄腕のさすらい剣士が現れ、少年を守りながら旅をする。しかし少年は捕まり、剣士は少年を助けるべく、敵の本拠地に乗り込む。そこには、剣士を腕を凌ぐ一人の強敵が待ち構えていた…」
…なーんて話、ウエスタンだろうが、警察かマフィアが絡む現代劇だろうが、SF宇宙物だろうが、異世界ファンタジーだろうが、「簡単に」置き換えられそうな類のものである。
この映画の最も特徴的なアイデンティティとは、そういうプロットの部分にあるのではない。チャンチャンバラバラ、すなわち、剣戟アクションの分野においてなのだ。
おそらく実写映画では今後10年かけても辿り付けないであろう、ジャパニメーション特有の、物理的限界ギリギリのところで表現される跳ねるわ飛ぶわのハイスピードアクション作画&物理的制約を受けないカメラワークなどの美点を活かしきったアクションが、この映画の中では展開される。
たぶんProduction I.G.が(押井塾生が)作画・絵コンテ担当してたら、もっと違った仕上がりのものが出てくると思うので、今回の作品はBONES様々といったところ。
さすがBONES.
すごいぜBONES.
やったねBONES.
This is the BONES!
『ラーゼフォン』や『ハガレン』の劇場版で、“映画としての”アクションの盛り上がりの欠如に肩透かしを食らった皆様。ご安心ください。BONESはやればできる子でした!
アクションや日常芝居作画はもちろんのこと、犬に馬に雨に血しぶきに土埃と、難しい作画をシーンごとに必ず入れてくるかのような勢いで投入されていて、全編にわたってスタッフのやりたいことが、これでもかと詰められている。
あと、ローケーションとシチュエーションが、私のツボをつきまくったものなので、観てて始終ニヤニヤ。やっぱクライマックスは巨大要塞に突入して上へ下へと跳ね回り、ここぞの瞬間で剣を抜くときはカット数と尺が多めでなきゃね!
そして、音楽に騙されながら盛り上がるってのは良い(笑)
『カウボーイビバップ』の頃に私がBONESに期待して求めてたものが、すべてここにあるんじゃないかしら?
プロット的にはシンプルとお約束で固められてるから、思わせぶりなオサレさってのはなくて、もっとストレートに表現されてるけど。
ていうかむしろ、ストレートに出せば済むところを、カッコよく見せようと捻って捻って失敗してるのが、いつものBONESなわけだし(←酷!
でも大丈夫。同じくオサレ志向のGONZOに比べれば、相当な優等生だ(笑)
いろいろと褒めてますけど、しかし、出だしを見たときはかなり不安だったなぁ。
初っ端の小太郎逃亡シーンはいいとして、「親分、獲物だ!」というやられ役のどーでもいい一言でスタッフロール&BGMスタートかよッ、とか、主人公よりも先にライバルの方のキャラ立てかよッ、とか、映画的というよりは小説的な始まりの構成が不満で。
それに、ただでさえ描くのが厄介な雨中の戦闘に加えてカメラが揺れまくりブレまくり動きまくりな上に瞳孔に映った画でカットを繋ぐなどのオサレショットも多数散見されるなど「なんて力みすぎてるアクションシーンだ!」とスタッフのテンションが気になったし、「ハイスピードに動きすぎてて、時々視認しにくいぞ!」という文句も出てきて、「この調子でクライマックスバトル描写されたら、しんどいなぁ」と心配になったし。
でも、実際のクライマックスは、そんな雑然とした感じではなく、いろんな意味でもっと見やすいものに仕上がっていたから、良かった良かった。
一緒に観に行った子の一人が「登場人物のほとんどがやられ役だったのには驚いた」と言っていたけど、この映画がどんなジャンルのものか理解できてたら、そんなことは完全に予想できることではある。「少年を守る凄腕の剣士が主人公のチャンバラ劇」という主旨から予想できるものそのまんまなのがこの映画なんだから。(大軍勢による合戦が入ってるのはちょっとした意外要素だが)
それに、そうした「お約束」は、設定方面からも補強されているので、なお予想しやすい。
だって、この映画のタイトルは『ストレンヂア(Stranger:よそ者・のけ者)』。つまり、「よそ者属性」の登場人物が主軸となるのは明白だ。それを踏まえて、死んでいったキャラたちを見てみれば、みーんな除け者ではない者たち、つまり、組織や大勢(たいせい)に属する人間たちばかりなのが分かる。
普通の映画ならよそ者側になりがちな明国の人間でさえ、数人集まることで大勢の立場を確保している。味方っぽかった竹中直人声の和尚も、寺院あるいは宗派という組織から抜けられなかったし、日本の国の日本人である城の連中にいたっては、組織を出し抜こうとしているイタドリを含めて論外だ(姫が死ななかったことが意外に思える)。
対して、小太郎は登場人物中唯一の子ども、というストレンジャー(異なる者)であるし、代わりの利かない特別なアイテムとして敵側に扱われる。名無しは赤毛(=南蛮人)である以上に、この作品の中で唯一戦いを忌避する存在だ。儀式や使命に興味のない金髪碧眼のアングロサクソン系である羅狼はストレンジャーぶりが分かりやすく、ラスト近くまで生き残ることを許される。
こうして、はぐれ者たちのはぐれた戦い(名無しと羅狼は合戦に参加しない)のお膳立てがなされているわけだ。
…と、生き残る理由を書いたけど、ラストの名無し、あの後絶対死んでるよな。
だって、脚本が高山文彦だぜー。
絶対救いのない(そのくせ意義があるからタチが悪い)重いラスト用意してるに決まってる。
映画のラスト後の部分が脚本か第一稿にはあって、「名無し、崩れるように馬から落ちる」って書いてありそうだ(笑) 英雄は勝った後は死するのみ…
そうでなくとも、名無しと和尚の絡みのところでは、高山文彦の特性がありありと出ている。
小太郎を敵に売り渡した和尚は、そのことを後悔して延々とうなだれるキャラクターでも、映画の大筋としては問題はなかったわけで、「だって人間ってそういうモンじゃん!」的なセリフを言わせる小物に仕立て上げるという選択をしたのは、たぶん脚本家の趣味なんでねぇの?
とはいえ、悲劇をキレイに書ける人だから、(悲劇ほどの複雑さはない)ストレートなこの物語もセオリーの乗っ取ってうまく書けていた。アクション主体のチャンバラモノのベースとして要求されるシンプルなものが、キチンと仕上がっている。
そして、これは繰り返しになるけど、そこに上乗せされてるアクションがやはりいい。
あんまりにも心地よい映画だったんで、久々に映画観がまた変わりそうだなぁ~
…とか言いつつ、劇場去るときに持っていったチラシは、
『仮面ライダー THE NEXT』、『ミッドナイト・イーグル』、『0093 女王陛下の草刈正雄』…
…ハハハハ。ダメだこりゃ。
ダメだこりゃ、をもう一つ。
名無しと小太郎の声が気になった。
TOKIO長瀬と平成ジャニーズ知念、悪くはないが、作画で表現されている性格と合ってない。
絵だけ見ると、名無しってもうちょっと3枚目寄りだから、この性格を表現するには、声のトーンの上下幅を大きくした演技が求められるのに、呆れ顔のときも過去を話すときもバトルのときも、カッコつけな演技ばっかだったからなぁ…
小太郎はもっと難しい。動きの面では(無邪気そうだが捻くれて大人びた)かなりアニメ寄りの性格してるから、棒読み演技の知念では、素の小学生に近いリアルってだけで、役者不足…
ジャニーズ事務所が関わってなかったら、もっといい子役選べたんだろうけど。
「『時代劇』ってアニメには向かないのかしら…」と思いましたのが正直なトコロ(苦笑)。
あまりの殺陣の速さに動体視力がついていけず(←年寄り)
せっかく首や腕が切り飛ばされて(汗)おりますのに
その後の血飛沫しか目に入ってこなかったのですよ…(苦笑)。
この殺陣のシーンがこの映画の肝であるでしょうに…。
逆に、長瀬クンは結構頑張ったかなと…。
彼は『陽』と『陰』なら『陰』の声だったから(笑)
子役の方に対しては同感ですけれど(笑)。
山寺氏は本当に良いお声♪「おっはー」さえ目にしていなければ
「どれほど渋い方が…♪」と妄想できたことでせふ(笑)
ラストは、わたくしも「えっ逝ってしまわれた…?」と思いました(笑)。
ここらへんは、「スプラッタ風味が過激になり過ぎないようにしよう」という配慮で、わざと見えにくくしてるんだと思うんで、動体視力はお気になさらずに(笑)
時代劇とアニメが合わないのは、特性の問題でしょうね。
時代劇は「ズバッ、ズバッ、カキーン、ズバッ!(見得切り)」みたいなリズムと定型が味で、
アニメは技術力を活かすスピード感と構図が魅力なんで、
両方が両方とも自分の特性を主張するだけだと、うまく合わないことになりますね。
どちらかが歩み寄れば、『もののけ姫』みたいな、良い感じの剣劇が見られるかも。
>ラスト
ダブルミーニングくさい終わり方だったんで、生き残ったか死んだかの想像は、好きな方を選べばいいと思いますよ。