『霧のエリューシブ』
例年ダメダメなお話しか出来上がってこない『ルパン三世』TVスペシャル。
もう見限るべきなんだろうけど、長年見続けてきた誼というのは私にとっては大変大きいらしく、ガッカリすることが決定済みなのに、やっぱり観てしまう(汗
でも今年は、動きには定評のあるテレコム・アニメーション制作ってことで、期待したい部分もあるじゃない!?
たとえ話がダメでも、動きとテンションで勢いを誤魔化せば、面白くなることもあるんだし。
「へー、『くたばれ!ノストラダムス』と『タイドライン・ブルー』のところに何を期待すればいいと?」とか言うな(泣
…でも結果は、そんな期待が脆くも打ち砕かれ、お話の出来の練りきれなさが目立つばかりに。
今年も……今年もダメなのかー!!!
それ以上に、多くの部分で『カリオストロの城』も意識している。冒頭のフィアットvsパトカー軍団の部分がそれっぽい動きだし、テレコム運送のトラックが通る際のレイアウトには笑った。中盤でとぼけるルパンにホールド技をかける次元もそうか。
手描きのフィアットの機動力は流石。あと、3DCGとはいえ、ボートアクションも動きのタイミング的にちょっとしたアイデアが凝らされていて、ガッカリはしなかった。それから、ボートが上陸した瞬間に横を通った車の女性。こんなところにも無駄に枚数かけて。
でも、後半に行くに従って、そのように、作画面でアイデアを凝らした動きやこだわりのある動きというのは少なくなっていく。単に私の画面への注目度が下がっていたせいかもしれんが(汗
(クライマックスでの両首領の顔の突き付け合いは宮崎駿っぽくて笑ったけど)
青ジャケルパンの登場や大塚康生作画のアイキャッチなど、ニヤッとさせられる部分もあったけど、所詮部分だったな…
そんな作画の一方、脚本と絵コンテは例年通りパッとしない。
「20作近く作ってきてネタが厳しいので、今回はタイムトラベルネタという新機軸を取り入れて、ルパンで時代劇やってみましょう、意外性と話題性とマンネリ打破効果がバツグンですよー」という企画会議での声が聞こえてきそう(笑
それを指して「『ルパン』にタイムマシンが出てくるなんて、作品の品位をぶち壊しにしている!」と文句を言うのは、実はお門違い。今回の話は、青ジャケ『ルパン』放映第13話が元になっていて、それにもちゃんと本物のタイムマシンが出てくる。ただし、ルパン自身が過去の世界に行くというネタはなく、あくまで現代での話だったけど…
多くの人間(但し視聴者に限らない)が『ルパン三世』に求めるものに合わせてテンプレート化されて年々狭められていく枠の中でしかストーリーを展開できずに、マンネリを通り越して陳腐化していて窮屈そうだった最近のTVスペシャルを観ていれば、まだ自由度が高くてお話の方向性や要素がバラエティに富んでいた第一シリーズに原点回帰して、たとえタイムマシンみたいなリアリティ皆無の設定でも尻込みせずに出してくる、という試みは、むしろ評価されるべきだと思う。
(GWにリアル感の薄いSF要素全開の『ルパン対複製人間』を放送してたから、テレビ局としてはその流れから成功する算段がついたのかもしれない)
でも、人々から求められるテンプレ枠や作品内リアリティから外れたものを出してくる以上、タイムマシンやタイムトラベルの要素を有効活用して“面白く”仕上げないと、出してきた意味がない。
そして、意味がない作品が仕上がってしまったというわけだ(笑
タイムパラドックスネタが終いにようやく出てきはするケド…
今回は中世のアイヌ民族の家同士の抗争を中心に描いているけど、ルパン一味との関わりが薄く、独立して進行するために、もはやこの話が『ルパン』で語られる必然がない。
かといって、『カリオストロの城』みたいに、『ルパン』という枠に固執しなければ面白い話だった、と評価できるシロモノでもなく…
冒頭、ルパンが愛銃を失くしてしまって、感想サイトで「後々の伏線になると思っていたのに、何もなくて驚いた、失望した」という意見が多かったけれど、私はあれを「現代テクノロジーによるアドバンテージが生み出すストーリーには頼らずキャラクターで勝負する宣言」という意味にとったので、最後まで出てこなかったことを意外には思わなかった。
…が、次元のマグナムと銭形のガバメントが、現代テクノロジーのアドバンテージを主張して物語を引っ張っていくので、「ワルサーは何やったん?」とやっぱり思ってしまった(汗
まぁ、両陣営にそれぞれ一つずつ現代兵器が持ち込まれることで物語が回転し出すので、ワルサーまで出てきたら、パワーバランスが崩れて話がややこしくなるんだけど。
だったら、次元に「お前のワルサーはどうした?」と訊かれたときに、プロというキャラを重視して「しくじったぜ、オレとしたことが~」という言い訳を述べさせて紛失の事実を目立たせるのではなく、マヌケだが軽ぅく「落とした」と一言だけ呟かせれば、穏便に済んだのに。
…などと考えていたら、後半で魔毛が現代から大量にマシンガン持ち込んで、思いっきりパワーバランス崩していたので、「一体、今回の話の意図は何なんだろう…?」と頭が痛くなった(汗
大体、現代の武器が注目される話なら、「コイツはスゴイ武器だ!」という人々の感嘆だけで表現するだけでなく、小道具自体をもっとしつこく描写しても良かったんじゃないのか?
そもそも、「彼らが乗っているのはクルマではない。“ベンツSSK”だ!」「彼らが使っているのは拳銃ではない。ワルサーP38であり、S&W M19であり、コルトM1911ガバメントだ!」という風に、小物にこだわるのが『ルパン』ではなかったか!?
それにしても、何で中世のアイヌなんか舞台にしたんだろう?
「誰が最後に笑ったか」のオマージュ? それとも、第二シリーズにそんな話があったんだろうか?
設定的には、五エ門がメインを張れるような環境なのだから、五エ門にメイン張らせるなら、アクションシーン満載の戦国時代や、風俗的には江戸時代の方がもっとしっくりいっただろうに…
…と思ったけど、戦国時代では五エ門の格好は軽装過ぎるし、江戸時代だと初代五右衛門と鉢合わせて話や設定がややこしくなるな… それはそれで面白そうだけど。
史実に深刻に絡んで話が複雑化することがなく、ファンタジー的な色合いもあって自由度が高そうなアイヌが舞台の方が好都合だったのかな?
ただ、服飾の色彩設定から『もののけ姫』を容易に想像してしまって、「ひょっとして大ヒット作にあやかろうとしたのか?」とも考えてしまった(笑)
テレコムは『もののけ姫』にも参加してたし。
しかし…
いろいろ考えるに、やはりタイムマシンという設定が出てくるのは、現状の『ルパン』では厳しいなぁ…
押井守や宮崎駿の弁じゃないけど、あれは第一シリーズが放映されていた1970年代、テレビ界やアニメ界を包んでいた大らかな雰囲気の中でこそ許容されて積極的に評価されるものであって、いろいろと設定やらリアリティにうるさくなった現代では(しかも、リアル感を大々的に無視した作風を確立させることはせずに、その流れの中に身を置いた『ルパン』では)並大抵のことでは通用しない設定になってしまったのだから。厳しい言い方をすれば「くだらない設定」ということになる。
その点では、魔毛狂介のキャラクターがギャグ化してしまったのは、ある意味で正解。
くだらない設定を作り上げたのが、くだらない(=笑える)キャラクターならば、お笑い要素としてタイムマシンを許容できうるから。
しっかし、魔毛を演じた中村獅童は見事だったねぇ~。
凡庸な演技しか出来ない芸能人が多数参加していた今回の中では、特筆の出来で、時に冷酷さも感じさせるこのギャグキャラを、説得力を持って演じられていて、設定を支えるのに寄与していた。
まぁ、声優と同じく舞台出身者だから、それっぽく演じられるのは当たり前といえば当たり前。声優は元々、舞台俳優の副業という位置づけだったから、マイクを使わずに広い会場中に聞こえるよう地声を張り上げる発声方法が、メインターゲットの子どもに伝わるようセリフを分かりやすく大袈裟に喋るアニメキャラの芝居のベースになっているのだから。
『獣王星』の堂本光一然り、『のび太の恐竜2006』の船越英一郎然り、舞台演劇経験者は、声優としての芝居がちゃんと聞けるものになっている。獅童が芸能人の中で特別上手いってワケではない。
ただ、中村獅童の演技が、脚本や演出が与える以上に、キャラに命を吹き込んでいた部分は、結構ある。
…もっとも、今回の脚本は、キャラに命を吹き込むような出来には仕上がっていなかったんだけど。
大体、良いストーリーが思い付かなかったら、キャラクターの魅力や絡みで盛り上げる手も考えてみるべきなのに。特に、過去数十作の蓄積があり、ストーリーよりもそっちで引っ張っていた部分が大きい『ルパン三世』においては。
例えば、ルパンたちが牢屋から逃げて、途中、無人の厨房で食事を拝借するシーン。
脚本が全然遊んでくれない。
「そーいえば腹減ったなぁ… 折角だから」とコソコソと入っていき、立って焜炉に向かったままクチャクチャ飯を食い、その後、調理のおばさんに大声を上げられて、何気なく振り向いてようやく見つかったことに気付き、「ヤベッ!」と一言だけ発して必死に逃げ出す…
ものすごいテンプレート進行。マヌケな図という以外に面白味が少しもない。
私の期待としては、こういう場合、コソコソするのではなく、堂々と座り込んでガツガツ食い、去り際にはおばちゃんたちに「勝手にいただき失礼しました、ご馳走様、ありがとう、マダ~ム」とか余裕かまして一礼してから慌ててそそくさと逃げていってくれた方が『ルパン』っぽい(山田康雄っぽい?)し、キャラクターの面白味も出てきて楽しいんだけど……というのは出崎版ルパンの見すぎか?(だから私は、そういうキャラ遊びという点で柏原寛司を評価してるんだけど)
ここに限らず、全体的に脚本に余裕がなく、話を進行させるのに必死になってる感じ。
某所からの情報で『ルパンTVSP』の製作期間の短さを仄めかされたことがあるので、たぶん今年も突貫工事でシナリオを作ったんだろうな。
脚本が二人ってのは、複数人で様々なアイディアを出し合った後で一本のシナリオとしてまとめ上げる黒澤監督方式じゃなくて、プロデューサーや監督が提示した粗いシナリオラインを基に二人で前後分担して作っていたか、間に合いそうになくて前任者が匙を投げたものをクリンナップさせられたか、ということなんでしょうよ。コンテマンも4人だったし。
だけど、脚本家が3人寄ってたかって作ってた『ハリマオの財宝を追え』は好きなんだよなぁ(笑)
何だろう? 私そんなに出崎監督のルパンが好きなのかしら?
まぁ、私のルパン視聴暦を考えると、そうなるのも仕方ないんですがね。
「あっ、今日は『ルパン』の放送だ。観なきゃ」という積極的な態度で初めて観たのが『ハリマオ』だったもので。
それ以前は、よみうりテレビ天下の夏休み特別再放送枠で放送されてたり、『金曜ロードショー』で流されてたヤツをたまたま観る、という経験が多くて、『ロシアより愛をこめて』だったり『バイバイリバティ危機一発!』だったり『ヘミングウェイ・ペーパーの謎』だったりで、物心つく頃に記憶に植えつけられたのが出崎監督版のスペシャルばかりなので、私の『ルパン』の基本って、大隅ルパンでも、駿ルパンでも、第二シリーズルパンでもなくて、実は出崎ルパンなんですよね。
あー、『燃えよ斬鉄剣』も海底探査とか終盤を少し観たなぁ…
もちろん、『カリオストロの城』も頻繁に観てました。バス遠足の帰りとかで。
ただ、後年、宮崎駿監督作品だと知ってから観た時は「あれ?こんなだっけ?」と思ってしまったので、ルパン体験の基盤を形成してはいるけれど、強烈な印象として残ってはいなかったらしい。むしろルパンとは別作品として見てたか?
青ジャケルパン(=第一シリーズ)も再放送枠で観てたな。最終回の「黄金の大勝負!」はやたら記憶に残ってる。
『くたばれ!ノストラダムス』含め、その辺までが私の『ルパン』原初体験になっていて、ここまでの作品だと「痘痕も笑窪」みたいな感じで文句なく受け入れられる。
ただ、これ以降のテレビスペシャルになると、さすがの私でもいろいろと文句が出てくるワケで…
なんと、この時点ではまだ観てなかった『ルパン対複製人間』すら含まれるのですよ!(汗
『トワイライト☆ジェミニの秘密』
杉井ギザブロー監督作品で、白ジャケルパンとか、エロ要素とか、優秀寄りの銭形とか、いろいろと惹かれる要素があったんだけど、全体の印象としてはいまいちパッとしない。が、今見返すと、まだマシ。
『DEAD OR ALIVE』
ゲストキャラの描写にやたら寄ってて「これ、『ルパン』か?」と思ってしまう。クライマックスのルパン一味vsナノマシンは見ごたえあるんだけど、そこに至るまでの流れがどうにもタルくて…
『ワルサーP38』
予算かかってるだけあって、見ごたえはあった。…が、最後の最後に救い様のないほどに陰鬱な話になってしまう辺りがどうにも残念で。
今石洋之原画部分は、音楽の効果もあって心地良かったね。
『炎の記憶』
原初体験以降のスペシャルでは一番好き。
脚本には穴が多いけど、日本人に身近な東京を舞台にしていてロケハンが凝ってたり、やたらと冴えわたる銭形がカッコ良かったり、ヒロインが活動派なので活躍の場が多かったり、脇が光る中で傍流になってしまいがちなところでルパンがちゃんと存在感を出せていたり、虫歯次元と刀紛失五エ門の脇道小ネタ要素も本編に回収されてスッキリしたり、小物や看板の描写にも力が入っていたり、とにかく個人的な琴線に触れるコンテンツが多くて楽しい。
今石洋之原画のジェットコースター暴走部と、「大変です、操縦桿が取れました~ ハイ、どーぞ!」から始まるクライマックスのルパン・銭形の共闘シーンが特にお気に入り。
私のテレビスペシャルの印象は、ここを頂点にして、次第に下落していくのであった。
『愛のダ・カーポ』
「記憶喪失になったからって、性格まで180度変わるもんか?」という基本的なところからノれず、オルゴンエネルギーの説明が急に出てきたことにも納得がいかず、おまけにそのキモの記憶喪失不二子を放ってゲストヒロインが自己主張しまくって「宣伝看板に偽りアリじゃねぇか!」と憤ってしまい、シナリオ密度の薄さも感じられて、あまり良い印象はない。
ただ、千葉繁のナザロフは良かったよ。ナベシン監督面目躍如(違
『1$マネーウォーズ』
シンシアがブローチに固執する(心理的ではなく)合理的な理由が弱いところが不満で、後半から急速に戦争をテーマにし始めて、前半と繋がり悪く、あまり良い印象がないんだけど、ルパンの死で奮起する次元や逆に気落ちする銭形とか、クライマックスのストレッチャーチェイスとかは楽しく、だらだら観るには良い感じで、結構観返してたりする。
『アルカトラズ・コネクション』
優秀寄りの銭形は嬉しかったが、魅力が活されているとは感じられず、またシークレットセブンのメンバー構成と実力がガッカリもので、いま一つノれず…
『ファーストコンタクト』
原作や旧シリーズから印象的なエピソードを持ってきて再構成することで、ダレるシーンを連続させることなく要所要所で見せ場を作り、見られるものに仕上がっている。全体的には焦点ぼやけてる気もするが(笑
小道具にもちょっと凝っているところも好印象で、独りで運転中のルパンがワルサーのスライドを歯で引いてリロードする様子は、なんか好き。
この作品での栗田貫一は低音で凄んでみたり声や演技に幅を持たせていて、窮屈な演技しかできなかった山田ルパンの真似ではなく、オリジナルの栗貫ルパンを模索し始めたのかなぁ、と思えて「それは良い傾向だ」と思ったんだけど、以降の作品を見る限り、どんどんワンパターンな演技に逆戻りしてるよね(汗
『お宝返却大作戦!』
ゲストキャラ側の描写を密にしているクセに、あまり良いキャラに育ってないのは致命的。前半と後半で物語の方向性がズレてるのも気になる。
「ルパンが今までとは逆の行動を!」というコンセプトは好きだけど、うまく活かされてはいないよね。もっとアイデア凝らしてよ。
『盗まれたルパン』
個人的には「何がやりたかったの?」の域に入ってきた。いろいろな要素を詰め込んでみたはいいものの、まとめられずに適当に結論つけてみました、みたいなのがイヤ。
『天使の策略』
今まで贔屓目に見続けてきた私にとっても、もはやギャグ作品。設定やシチュエーションだけが連続して、それに中身が一切伴わず、スッカラカン。
『暴れん坊将軍』や『三匹が斬る』の殺陣チャンチャンバラバラシーンみたいに様式美化した戦闘シーンを想定していたのであろうクライマックスの総攻撃シーンだけが、「悪趣味だ、センス無ぇ…」という激しい失望と共に、記憶に残っている(笑)
『セブンデイズ・ラプソディ』
前作がアレすぎたので、それに比べればまだマシ。でも相変わらず「何がやりたかったの?」路線。クライマックスを銃撃バトルにせずに穏やかに終わらせることに納得できる話運びではなかった。
仲間内の対立なら『ヘミングウェイ・ペーパーの謎』を見ていた方がまだワクワクするわ。ルパン一味って案外ビジネスライクな関係の部分が多いよね、というリアリティが感じられて好きなんだけど、アレ。