『ほしのこえ』という半時間アニメ作品を独りで作り上げ、オタク界でにわかに注目されている期待の新星・新海誠がこの春送る新作オムニバス形式映画『秒速5センチメートル』。
Yahoo会員限定で、オムニバス3話中の1話がネット配信されていたので、特別に観れました。
私は新海作品体験は『雲の向こう、約束の場所』だけなんだけど、いやぁ、私はあの作品の雰囲気が好きでねぇ。……そっち系の作品を全然観てないせいかもしれないけれど(『花とアリス』も『リリィシュシュのすべて』も観てねぇぜ!(泣))
だから今回の新作は……
…いや、いつぞや某仙人と元部長にボロックソに言われたトラウマがあるので、あんまり注目してなかったなぁ(汗)
『ほしのこえ』『雲の向こう、約束の場所』という叙情SF作品から離れて、監督の身の丈にあってる思われる『彼女と彼女の猫』のような現実ドラマ路線の作品を手がけるので、自身のホームグラウンドでどれだけのものを仕上げてこられるのか、ってのは興味あるけど。
今回の作品内容は、小さい頃に別れた仲良しの女の子に会いに行く、ただそれだけの話。
しかし名作と呼ばれる作品にはこういう単純な形式も少なくないので、演出の仕方によっては良いものが出てくるだろうし、逆に、単純ゆえにちょっとでもやり方を間違えると途端につまらなくなるので、演出する側の手腕が大きく関わってくる。
…今回の場合は、どちらかといえば後者のような。
う~ん、何かいろいろ苦言を呈したくなるなぁ~
良作に出会っても「あれはあそこがこんな風に良くて、こことそういう風に結びついているのが素晴らしくて、でもあの部分はいただけなかったなぁ」などと的確な批評がまったくできず口数少ない私だが、アラが目立つ弱者と出会ったときは強気になって貶しまくるぜー、ハッハー!!
…典型的な小人間だな(泣)
新海作品お馴染みのモノローグで始まり(というか全体が語りだらけなのだが)、語りの主体が貴樹と明里の二人もいるために混乱する。
二人で分け合っているのなら問題ないのだけど、明里の語りが延々5分続いた後に、その後貴樹の語り以外出てこなくなるので、観てるこっちは明里から貴樹への語りの転換点で戸惑ってしまう。
ただ、こうした脚本面の混乱も、画的な演出で補充し長所にすることも可能ではある。しかしそれもなかったからなぁ。
画的な演出というのは、例えば…
①明里から貴樹に変わるその瞬間に画面をホワイトアウトさせて、語りの連続性を断絶させたように見せる
②明里の語りの部分は主従の「従」であることを強調するように、色彩を落としたり逆に白いフィルターかけたり、あるいは止め絵的にするなど何かしら見た目を変える
③明里の語りの時はロングショットを多用し、貴樹の語りの時は観客と主人公の心情を近づける意味を込めて最初のうちは寄り目にする
など、とにかく変化を表すことに尽きる。
しかし実際のフィルムは、明里が手紙を読んでいる音声がオフで流れている間に、画面に映し出されているのは貴樹の日常。画面は貴樹の主導を主張しているのだけど、音声は明里の優位を伝えている。で、このまま進んでいくならこうした様式として受け入れられるのだけど、貴樹の日常の様子がそのまま変わらずに坦々と画面に流れていくのに、急に高木のモノローグにシフトしてしまって、その後一切明里の語りが出てこないから、観てるこっちは「?」となってしまう。
それに、明里の語りは手紙の朗読。映画に出てくる手紙の朗読は、映画内の時間を堰き止める意味が含められるものなのですよ。手紙は常に過去から発せられる言葉を伝えるものだから。でも、この映画ではそうしたことはまったく考慮されてなくて、順当に貴樹の物語を進めるのみ。なんだかなー。
あと、これも新海作品の特徴であるロングショット。でもショットサイズを効果的に使ってくれないんだよなぁ
もっと寄って、寄って、とこっちが思いたくなるところでも相変わらず引いたまま、って部分が多いし。
ロングショットが多用される意味というのは、いろいろあると思うんだ。
①登場人物に近いと視野が狭くなるので引いたところから見るため
②とにかく登場人物を画面にいっぱい出すため
③人物よりも背景の方が重要なため
新海作品でロングが多いのは、③の理由だろうけど……新海監督、あなたの場合背景が重要というよりも、背景描きたいから何も考えずにやっとるだけじゃないのか!?(笑)
それか、こんだけ登場人物の内面を表すモノローグを入れてても、人物にはさほどの関心がなく、むしろ監督自身が距離を置きたがっている、とか。
そして最大の問題は、クライマックスの二人が抱き締め合う一番盛り上がるシーンで、映画技法ではやってはいけないとされるイマジナリーライン越えを、堂々とやらかしてくれちゃったことだ! しかもかなり違和感のあるカタチで!
そんな違和感のあるカットつなぎを見せられた瞬間に「あー、あー」っていう脱力感に襲われた。
それでもイメージとしては随所で綺麗なんだけどなぁ、この映画。