…というわけで、神戸尊@及川光博ともお別れとなる『相棒ten』最終回と相成ったわけだが、これがどうにも盛り上がらない。
神戸クンを特命係に留まらせる理由付けを行った『相棒Season8』最終回が、設定の理由付けの意味でもストーリー自体の面白さという意味でも見事すぎて、個人的にも好きな最終回だっただけに、それを凌駕する事態(神戸が特命係を離れる)が起こる回に寄せる期待には釣り合わなかった印象だなぁ
禁忌のクローン人間が実際に誕生しようとしている!という大事件を背景にして起こる殺人事件を解いていき、その結論の取扱いで神戸クンが特命係と袂を分かつことになる、というのが今回の話の流れ。
『相棒』が取り扱う大事件にありがちな、難解な殺人事件の犯人逮捕後の流れの方がむしろメイン、という構成である。
ただその場合でも、前座ともいうべき殺人事件は、解決までの道筋はかなり捻っていて、「これは誰が犯人なんだろう?」とか「こんな犯人、どうやって捕まえる気なんだ?」とか、そこの部分でも楽しめるようにできているのがほとんど。
今回はこれがイマイチだったんじゃあないかな、と。
まず今回は、犯人や犯行方法が誰がどういう形でというのが最初から分かっている倒叙型なので、「誰が犯人なんだろう」という流れではない。
しかも、“犯人を庇ってた母親が犯人を説得して、自分が自首して身代わりになる”という流れになるので、例えば、同じく視聴者が犯人分かっている状態でも、右京サンたちが犯人分からない状態から証拠などをかき集めて身代わりの犯人に辿り着く、という流れに比べて紆余曲折が一段階も二段階も少ない。
身代わりの犯人と真犯人が意思疎通しているから、例えば「なんであの人が私を庇って自首なんか!?」などと真犯人が思ってしまったために、身代わりの人が想定してた以外の動きをしてしまう、なんてことでドラマも作りづらい。
まぁ、本人了解済みとはいえ母親を身代わりにしてしまったことを悔やむも、クローン人間を何が何でも誕生させなければという状況に立たされる真犯人、という状態でもいろいろドラマは深められそうだけど、そこには深く踏み込んでいかないので。
大事件にお馴染みの上層部や政界からの圧力も話の流れの中に入ってくるんだけど、それも特命係とは少し関わるだけで、事件の解決の道筋自体を捻じ曲げるほどのドラマを生むものではなかった。
あとは、「自首している犯人がいる状況で、どうやって真犯人を炙り出すのか」というところで盛り上げるしかないのだけど、コート一枚の存在で軽く解決されるからなァ…
そんな感じで、殺人事件の経過自体は、そんな面白みの鮮やかなモンでもなかったように思える。
今回の話のキモは、ラスト30分の、クローン人間誕生という状況を巡る右京サンと神戸クンの対立というところ。ここが最高に盛り上がれば、ここまでの展開の燻った印象も回復できるというもの。
神戸クンがほとんど悪役ポジションなので、賛否は分かれると思うが、右京サンと神戸クンを引き離そうとすると、これぐらいの荒業がないとムリだったのかなぁ、と。
人材の墓場・特命係にいながらも自分の進みたい道を見つけて右京サンから巣立っていった亀ちゃんとは、まったくの対称。
“事件の真実は追究し、法廷で裁くべき”という右京の信念を折ってみせ、右京から逃げるように特命係を去る神戸、だものなぁ
右京サンは「心情的には君の訴えはよく分かります」「君を追い出す気はありませんよ」というセリフを言ってくれるとはいえ、円満な雰囲気で特命係を離れられなかったのは、亀ちゃんとの差別化か…
ただ、あれだけ「どんな理由があれ、あなたの犯した罪は決して許されるものではありません」と断言しまっくててブレない右京サンとはいえ、今シーズンでも第2話「逃げ水」とかで、「法廷で裁かれるべき種類の事件“以外”」の重いテーマについては、バッサリ切らないこともあるよね。
「これほどまでの被害者の無念をあなたはどう思いますか!?」とか「自分自身に非のないクローン人間が非難されて生きていくことをどう思いますか!?」とか、犯罪なんだからとバッサリ切れない問題を突きつけられると、右京サンは意見を言わずに、途端に黙ってしまうということが間々あるので。
そういうキャラ設定というよりは、現実でも難しい問題に対する杉下右京のスタンスを明らかにしてしまうとキャラ設定が崩れる場合があるので、演出サイドの判断で言わせない、ということなのだろうけど。
ただ、神戸クンに対する右京サンの「“この”僕を脅そうというのですか!?」発言は、若干なり高慢な感じがして、少しイヤだったりする。
…しかし、ここに来て、“天才・杉下右京の動きを、それを上回る機転で封じる秀才・神戸尊”なんて話を出してこなくてもいいじゃないか!
これ、もっと前から出してくれてれば良かったじゃないか、という意味で。
そうすれば、どうにも“相棒”としての存在感が薄い神戸クンのキャラを、方向性やレベルは違えど頭の良さで拮抗し合う相棒、ということで深めることもできたのに。
「Season9-6.暴発」ではそういったこともあったが、それ以外の回ではほとんど無かったので。
今回、『相棒-劇場版II-』で登場した長谷川副総監@國村隼が再登場。
劇場版での出来事で、警察の人間としては…というか一般人としても致命的なダメージを受けたのに、警察庁に異動して警察に残留中。
右京サンを黙らせた神戸クンに目を付けて、特命係からスッパ抜いて配下に置く、なんというか、黒さを発揮。
今後は、今は亡き小野田官房長ポジションを、長谷川元副総監と神戸クンで埋めるつもりか?
今話では長谷川元副総監は腹に一物あって頭の切れそうな人物のような描かれ方をしているが、劇場版IIではそこまでの大物感はなかったんだけどなぁ
ただ、劇場版IIを見ないで今話だけ見てる視聴者にとっては、長谷川元副総監がどういう人間なのか、あまり分からないのではなかろうか?
今話の描写だけなら、片山雛子の片腕的な、警察庁所属の新キャラ、とか言っても通じる感じでもあるので。
神戸クンから「干されたんじゃないんですかッ!?(怒)」と言われてるので、神戸クンと因縁のある人物であることも分かるだろうけど、劇場版IIの予告編すらあまり意識して見ていない人だと、「今後この因縁の理由が描かれるのかな?」などと勘違いされてしまうような気もする。
神戸尊特命係卒業が今回の謳い文句だが、卒業というより、長谷川元副総監に目を付けられた“囚われの姫”になったって感じだ(汗)
ところで、今シーズン、続きモノでもないのにネタが被ってる回が多い気がする。
「すみれ色の研究」でバイオ燃料についての話題が出てきたと思ったら、2話後にバイオ燃料を主題にした「あすなろの唄」が放送されたり、今回のクローン人間誕生というか生まれてくる子どもの話でも2話前の「陣川、父親になる」で同じく妊婦さんが出てきたし、なぜこんな近い時期に似た話題のものを放送するのだ…
それを本題にした話をするのにはまず視聴者の理解を深めてから、というならし運転的な意味があったのだろうか…? それでも効果ない扱いだとは思うが。